著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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2026年1月17日に非営利活動法人サンカクシャ主催のオンラインイベントに参加しました。
当日はスキマバイト・闇バイトの当事者の実態や若者の貧困、孤立問題に関する話がありました。

ブラック企業研究家
長池 涼太
職業紹介責任者の資格所持。大学でのブラック企業に関する授業登壇の実績あり。当メディア涼しく生きる運営。
ブラック企業において過労死寸前の長時間労働やパワハラを経験。その経験をもとに大学などでブラック企業の実態やブラック企業で壊されたキャリアの再生方法等を解説。
イベントの概要
近年、SNSやアプリを通じて気軽に始められる「スキマバイト」や、一見すると仕事に見える「闇バイト」に巻き込まれる若者が後を絶ちません。
「危険だと分かっていても、なぜ選ばざるを得なかったのか」
「そもそも、なぜ支援や相談につながれなかったのか」
本イベントでは、
実際に取材・現場を経験してきた記者や、日々若者と向き合うサンカクシャのスタッフが登壇し、雇用の不透明な実態と若者たちの暮らしのリアルを、当事者の声を交えながらお話しします。
また後半では「困りごとを抱えた若者たちの課題に、社会はどう向き合うべきか」をテーマに、登壇者によるクロストーク・ディスカッションを行います。
特定非営利活動法人サンカクシャ
近頃タイミーを筆頭に話題のスキマバイト。最近ではスキマバイトから闇バイトにつながるケースもあるそうで、イベントではサンカクシャに加え、東京新聞の中村真暁記者によるスキマバイト・闇バイトの潜入取材などの話がありました。
雑居ビルの待機部屋で待つだけ
東京新聞の中村記者による潜入取材の話。ビルの一室にある「待機部屋」へ向かう。
そこには20代から50代の男女が数名、パイプ椅子に座り、黙々とスマホを眺め、あるいは無言で弁当を食べ、ゲームに興じている。会話はなく、ただ「呼ばれるのを待つ」という状況。
「タイミーさん」と記号的に呼ばれる彼ら。そこでは、個人の人格やこれまでの歩みはないものとされ、ただの「交換可能な労働力」とされているようでした。
「待機」という名の不可解な労働:交通費は自腹、報酬は雀の涙
スキマバイトには一部「スタンバイバイト」と呼ばれるものもあります。
スキマバイトアプリ「シェアフル」で見つけた「スタンバイバイト」の就業場所。私はここへ、バイトをするためにきた。
数日前に見つけたアプリの求人には、こうあった。
「超お得なスタンバイ求人 最短1分で給料GET!」
スキマバイトアプリ「シェアフル」に掲載されている「スタンバイバイト」の案内。このバイトが取材を進めるきっかけになった
意味がわからず、興味本位でスマホの画面を指でタップした。
何かの仕事で当日のスタッフに欠員が生じたとき、代わりに出動するために待機する仕事らしい。
時間は午前7時~9時半で、給与は3000円と書かれていた。
待機中に振られてくる仕事の詳細は、当日呼ばれるまで分からない。
スキマバイトの進化形?「スタンバイバイト」に潜入…何をやらされるか分からないまま、新宿の雑居ビルを訪れた
何時までの仕事なのか、給料はいくらなのかもだ。
スタンバイバイトの実態は、効率性とは程遠い。潜入取材の記録では、評価が3段階で最高、かつ「是非また働いて欲しい率」100%という実績を持つ働き手でさえ、待機部屋に3日間通い続けて一度も声がかからないという理不尽に直面しています。
労働者たちの声は切実で「少し遠くに行くこともあるが、交通費は出ずスタンバイバイトのバイト代から出すしかない」という。待機報酬が交通費に消え、手元に残るのは雀の涙。それにもかかわらず、彼らは自嘲気味にこう語る。
「待機だけならおいしいバイト」
ただ座っているだけで数千円が手に入ることを「おいしい」と感じてしまう。その背景には、まともな賃金を得る手段を奪われ、労働感覚が麻痺せざるを得ない低賃金構造の根深さが横たわっている。
「偽装請負を取り締まると日本は回らない」という衝撃の開き直り
この界隈の不透明さは、単なる効率の悪さにとどまらない。とある現場では、指揮命令系統が法的にグレーな「偽装請負」の疑いが色濃い。さらに不可解なのは、雇用主さえ曖昧なケースだ。

取材でとある企業は「偽装請負をしている会社は多いと聞く。それを取り締まってしまうと、日本は回らないと思う」と言い放ったそうです。労働者保護を「効率を悪くする邪魔なルール」と言い切るこの開き直りこそが、若者たちを追い詰める元凶ではないでしょうか。
また労働時間など労働基準法における違反もしくはグレーな事案も見受けられます。実際にとあるたこ焼き屋ではタイミー経由のアルバイトが出勤時間の3分前に来たら帰らされたこともありました。
自己肯定感を「ハック」する仕組み:なぜ若者は抜け出せないのか
なぜ、これほどまでに不安定な労働に若者たちは吸い寄せられるのか。それはスキマバイトが単なる「仕事」ではなく、若者の心理的飢餓感を埋める装置になっていると分析する。
特に対人不安や発達障害の傾向を持つ層にとって、スキマバイトの「継続的な関係を築かなくていい」という特性は、ある意味救いとして機能する。職場での複雑な人間関係から逃れられる一方で、アプリ上の「3段階評価」が即座にフィードバックされる。
「自己承認をハックして働かせる仕組み」
社会とのつながりが断絶された孤立の中で、画面上の数字だけが自己評価の基準になる。ゲームのようにスコア(評価)を稼ぐことで、自分が何者かわからないという不安を一時的に紛らわせる。この心理的な脆弱性を突いた仕組みこそが、スキマバイトの真の恐ろしさです。
即入金の罠:ネットカフェから抜け出せない「負のループ」
イベントで挙がった事例では、スキマバイトによる「時間的・経済的な貧困」も浮き彫りになりました。コロナ禍で困窮し、借金を抱えてネットカフェ生活に陥った彼を縛り付けたのは、スキマバイトの最大の売りである「即入金」だった。
即時振り込みとは
24時間・365日いつでも、お好きなタイミングで銀行口座への振り込み申請を行なっていただけます。
また、振込手数料はいつでも・何度でも無料です。
即時振り込み・給料日について – タイミー(ワーカー様向け)
しかし、ここには巧妙なシステム上の罠があります。タイミーなどの主要アプリには「週39時間未満」「月間報酬78,000円未満」といった制限がある。
タイミーは、社会保険の加入などの事務手続きが不要な範囲で働けるサービスです。
そのため、事務手続きに関連する申し込み制限が4種類あります。
お仕事の申し込み制限について – タイミー(ワーカー様向け)
- 1日1件まで
- 週39時間未満
- 月間報酬による申し込み制限
- 年間報酬による申し込み制限
月間報酬による申し込み制限:同一企業での月間報酬が、78,000円未満になる募集にお申し込み可能
年間報酬による申し込み制限:同一企業での年間報酬が、28万円未満になる募集にお申し込み可能
社会保険加入の義務を逃れるなどのためのこの制限により、彼は生活を維持するために複数のアプリを使い分け、過酷な労働をせざるを得ません。
- スキマバイトで日銭を稼ぐ(即入金)
- その日のネットカフェ代と食費に消える
- 手元に残金がなくなり、翌朝またアプリを開く
この循環の中では、安定した住居を確保するための貯金も、就職活動のための時間も奪われる。即日支給という「点」の報酬が、人生の「線」としての再生を阻んでいます。
SNSの闇に潜む「不適切な求人」への入り口
セーフティネットもスピード感に追いついていない。「行政に相談しても1、2週間かかる」「また改めてと言われる」という若者たちの不信感は根強い。事実、サンカクシャの調査では、全国で22万人の若者が「誰にも相談できない」孤立状態にあり、50人に1人は「どこにも居場所がない」と感じているようです。
公的支援に絶望した彼らは、スマホでより「手軽な」情報を探す。そこには、若者を搾取しようと待ち構える業者がSNSを駆使して「闇バイト」への入り口を広げています。
スキマバイトもメリットはある:とりあえず社会権を積む

そんな闇バイトの入り口にもなりうるスキマバイトですが、正しく使えばメリットもあります。
たとえばスキマバイトは基本的に履歴書が不要で、面接などの選考もほとんどないため良い意味で気軽に働くことも可能です。僕自身も転職活動をする際に転職サイトやハローワークなどで求人を探しましたが、実際仕事を探すうえで選考なども考えるとハードルを高く感じてしまう部分もあります。
特に僕の場合はパワハラを受けてクビになった経験がありますが、そのあとの転職活動は応募1つにもかなりの勇気がいりました。
その点スキマバイトであれば履歴書等の選考もないですし、多くは特別なスキルが求められるものではないため年齢やスキルに縛られずに仕事を選べます。そのため、たとえば自分に向いている仕事を探すために経験を積み重ねたり、社会経験を積み重ねるには良い機会になる側面もあります。
スキマバイトもあくまで絶対的な悪ではなく、スキマバイトの使い方や仕事の選び方をわきまえていれば良い働き方にもなります。
気軽に働ける時代こそ労働に関するリテラシーは必要
2025年7月、厚生労働省は「マッチング(応募完了)した時点で労働契約が成立する」との見解を示し、休業補償や労災適用の道を開き、わずかながら前進は見られました。
「スポットワーク」では、アプリを用いて、事業主が掲載した求人に労働者が応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的である。面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられること。
いわゆる「スポットワーク」における留意事項等をとりまとめたリーフレットを作成し、関係団体にその周知等を要請しました。|厚生労働省
スキマバイトは気軽に働ける、稼げるなど「便利なサービス」ではありますが、その背後には名前を失い、スマホの画面だけを頼りに日々スキマバイトで食いつなぎながら夜を明かす若者がいるのもまた事実です。その孤独の上に成り立つ便利さは、果たして健全と言えるでしょうか?
またスキマバイトを介して闇バイトという犯罪に手を染めてしまう人もいます。画面をタップするその指が、誰かの孤立を深めていないか。私たちは今、その問いと向き合う岐路に立っている。
スキマバイトや闇バイト、違法なものは取り締まるべきですが、同時に労働者側の我々もしっかりリテラシーを身につけるなど危ない働き方を回避する立ち回りも必要です。
涼しく生きるではスキマバイトも含めたブラック企業・労働問題対策やキャリアの築き方などを講演や授業等の形でも伝えています。



