著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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2025年11月28日の毎日新聞の記事で『不機嫌ハラスメント』に関する記事が出ていました。
不機嫌ハラスメント(略称:フキハラ)は最近たまにネット上でも見聞きするワードでパワハラやセクハラ同様にハラスメントの一種とされ、特に不機嫌な態度をあからさまに出すことが時と場合によってはハラスメントに該当するとされています。
一方で不機嫌ハラスメントはパワハラやセクハラと比べると取り上げられることが少なかったり、定義もあいまい、裁判の判例も少ないため扱いや判定など難しい立ち位置にあります。
そんな中で今回の毎日新聞の記事の件は数少ない不機嫌ハラスメントに言及した労働問題ですので、今回の件を通じて不機嫌ハラスメントについて考える機会が増えればと思います。

ブラック企業研究家
長池 涼太
職業紹介責任者の資格所持。大学でのブラック企業に関する授業登壇の実績あり。当メディア涼しく生きる運営。
ブラック企業において過労死寸前の長時間労働やパワハラを経験。働き方も正社員からフリーランスまで多様なスタイルを経験。
不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは不機嫌な態度で相手を威圧する行為
不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは、口調や態度で自分が不機嫌な気分であることを示し、相手に不快感や威圧感などを与える行為を指します。
たとえば、不機嫌な態度で部下に無理難題を押しつけたり、ほかの人に悪態をついたりすることなどが挙げられます。これは、特定の法律で直接的に定義されたハラスメントではありませんが、心理的安全性を著しく損ない、組織の生産性を低下させる深刻な問題として近年、対策の必要性が高まっています。
不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは? チェック項目と対処法 – カオナビ人事用語集
文字通り不機嫌な態度に起因する行為、ハラスメントです。パワハラやセクハラと違って公式に定義されているハラスメントではないため、扱いやハラスメントに該当するかどうかなどの判断が難しいところです。
ただ、不機嫌な態度をあからさまに出しすぎることで、周りの従業員を威圧することにもつながって仕事のパフォーマンスを落としたり、最悪の場合は心理的に追い詰めて他の従業員の休職や退職につながるリスクも予想されます。
不機嫌ハラスメントの事例|栃木県の自治体

数字の根拠を尋ねると舌打ちされ、仕事上で意見が対立すると、周囲に聞こえよがしに「顔も見たくない」――。暴力でも罵声でもないが、感情をぶつけることで相手を追い詰める行為は、近年「不機嫌ハラスメント」と指摘されている。
栃木県内の自治体で働く30代の男性職員は部下の女性によるこうした行為により心身の不調をきたし、休職に追い込まれた。男性は今春、慰謝料を求めて提訴し、女性が3万円を支払うことで和解が成立。男性は「相手が部下でもやられたら傷つくし怒りもわく。こうした訴えができることが抑止力になれば」と話す。
顔背け、舌打ち…部下の「不機嫌ハラスメント」で休職 3万円で和解|毎日新聞
栃木県の自治体で起こった案件で「パワハラには該当しないとされるが日常的に追い詰める行為が積み重なった」「部下から上司によるもの」という点では少し珍しいパターンです。
これがセクハラであれば性的な言動、パワハラであれば暴力や暴言などある意味わかりやすい事例がありますが、そこまであからさまなものではない点で不機嫌ハラスメントに該当するかや裁判に持っていくことが有効かなどで判断が難しそうでした。
栃木県の自治体における具体的な不機嫌行為
- 暴言や物理的な暴力ではなく、態度・雰囲気を通じて圧をかける「不機嫌」
- 男性が数字の根拠を質問すると、女性は舌打ちして「覚えていません」とそっけない返答
- 意見が対立する場面では、相手の前で「顔も見たくない」と発言するなど、公然と無視の態度を示した。
たとえばパワハラでよくあるのが「殴る蹴る」「暴言」「人格否定」などですが、今回はそこまであからさまなものではなく、不機嫌、素っ気ない態度、無視の態度の公言などハラスメントに該当するかしないかの絶妙なラインでした。
その点では今回の件は、裁判官なども判断がかなり難しかったと考えられます。
ただしハラスメントに該当しないとしても職場で上記のような行為をしている人に対しては、多くの方が不快感や嫌悪感を覚えると思います。
不機嫌ハラスメントの扱いの難しさ
不機嫌ハラスメントの裁判例などは少ない
今回は結果としては加害者に当たる女性は3万円を払うことで和解が成立しました。ただし、労働問題に関心のある方にとっては何かスッキリしない結末に感じた方も多いと思います。
- 和解で被害者が得る金額3万円は少なすぎでは?
- 今回の一連の件が明確にハラスメントと認定されたわけではない
今回被害者に当たる男性は適応障害と診断されて休職していたり、職場においては加害者の女性から心無い言葉を日ごろから浴びていました。
また、加害者の女性も特に反省の様子がなかったり、懲戒などの処分はされておらず、事件当時からは部署を移動しただけで実質お咎めなしの状態です。被害者の男性も職場復帰できたくらいには回復しているそうですが、やはりほかのハラスメント案件と比べると加害者に特に処分等がされていないのは気になります。
不機嫌ハラスメントの定義はあいまい
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
ハラスメントの定義|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
職場のセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは職場において、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、身体への不必要な接触など、意に反する性的な言動が行われ、拒否したことで不利益を受けたり、職場の環境が不快なものとなることをいいます。
職場でつらい思いしていませんか?職場のハラスメントの解決を 労働局がお手伝いします|茨城労働局
事業主には、職場のセクシュアルハラスメントを防止するための措置が義務づけられています。
たとえばパワハラやセクハラの定義はこのように厚生労働省や労働局も言及しています。一方で不機嫌ハラスメントに関しては、厚生労働省も言及はほとんどしておらず明確な定義もあるようでないです。
解釈によってはパワハラやセクハラの一部とも取れそうですが、不機嫌ハラスメントはそれくらい定義や立ち位置があいまいなので、労働問題や裁判に発展した時に扱いが難しい場合もあります。
部下から上司へのハラスメントもある
ハラスメントは全般的に上司が加害者、部下が被害者になることが多いです。
厚生労働省においてはパワハラの定義も定められていますが、「①優越的な関係を背景とした言動」の観点から上司が加害者、部下が被害者であるのが前提とも取れます。ただ今回の不機嫌ハラスメントの例もそうですが、少なからず部下によるパワハラも存在します。
不機嫌ハラスメントによる職場のリスク
- 職場の雰囲気が悪くなることによる生産性の低下
- メンタルに不調を訴える人が増える
- 雰囲気の悪化、メンタル面の不調などがもとになり休職者、離職者が増える
- 裁判などの法的リスク
生産性の低下
不機嫌な態度は職場の空気を一瞬で壊すこともあります。特にチーム全体が萎縮し、発言が減り、意思決定が遅れるなどすると、PDCAが止まります。
そして結果として、業務スピードが確実に落ちます。
メンタルの不調の誘発
特に周りの人の言動などを気にするなど繊細な人は「舌打ち」や「無視」など人によってはささいなことと思うなことでもメンタルをやられることがあります。フキハラは“見えない暴力”。
放置すると 休職者や離職者が発生し、人員不足につながる。
離職者の増加
「雰囲気の悪い職場」に耐性が低い人も一定数います。不機嫌を撒き散らす人が1人いるだけで職場の士気は下がりますし、それにより人が連鎖的に止めることも考えられます。特に人が辞めるときは優秀な人ほど辞めていくことも多いので注意しましょう。
ハラスメントとしての法的リスク
最近は「不機嫌ハラスメント」が紛争案件になるケースも出てきています。放置すると
- 労働局への相談
- 労災申請
- 損害賠償請求
などにつながり、企業の信用が落ちたり、裁判の労力がかかるなどのリスクがあります。
もちろんフキハラに関してはパワハラやセクハラほどの裁判の件数もないため未知数な部分も多いですが、職場におけるリスクを考えると対策も必要になってきます。
不機嫌ハラスメントに該当するかより予防が大切
不機嫌ハラスメントはパワハラやセクハラなどと比べるとまだあまり馴染みのない言葉で、裁判等の事例もないため企業も労働者側も明確な対処法がそこまで確立されていないのが現状です。
人間なので不機嫌になること自体は誰でもあります。ただ、それを仕事・職場に持ち込むのは良くないですしほかの社員に悪影響を及ぼすこともあります。
不機嫌ハラスメントなどハラスメントがメディアで報じられると「何でもかんでもハラスメントにするな!」という意見も見られますが、それ以上に一人の不機嫌が人を精神的に追い込むこともある。これを認識して働きやすい職場づくりが進んでもらえると幸いです。
そして本質は不機嫌ハラスメントに該当するかではなく、ハラスメントを未然に防いだり職場の雰囲気には常に注意を払うなどの取り組みをすることではないでしょうか。

今回の記事のもとになった新聞記事は以下のリンクより見れます。




