著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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2018年に「何故ブラック企業で働き続けるのか」(話題提供者:大内裕和(中京大学国際教養学部)、大林裕司(心理支援ネットワーク心PLUS)菅俊治(東京法律事務所))という論文が公開されました。
論文ではブラックバイト(ブラック企業)で働き続ける理由を心理・構造・教育の観点からまとめたものです。
- ブラック企業に残ってしまう心理がわかる
- 自分を責めず、抜け出すヒントが得られる
- 就活でブラック企業を避ける力がつく
現時点で7年前の論文ですが、ブラック企業やワークルール教育の話は今でも通用・当てはまる部分が多いです。今回の記事ではブラック企業を辞められない理由やブラック企業を辞めるために必要なアクションなどを論文をもとに解説しました。

ブラック企業研究家
長池 涼太
職業紹介責任者の資格所持。大学でのブラック企業に関する授業登壇の実績あり。当メディア涼しく生きる運営。
ブラック企業において過労死寸前の長時間労働やパワハラを経験。働き方も正社員からフリーランスまで多様なスタイルを経験。
ブラック企業とは何か
ブラック企業とは,そもそもは,やくざのフロント企業を意味していたが,2000年代後半にIT企業の労働者がインターネット上に,自社の悪口を書き込み,そこから広がって,劣悪な労働条件の企業という意味に変わったように思える。
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
昔はブラック企業というと今のような労働環境が劣悪というよりは、暴力団のフロント企業の意味合いで使われていましたが、2000年代後半に意味合いが変わってきました。
僕は大学生だった2009年~2011年にかけて新卒として就職活動をしていましたが、この頃にはブラック企業も今と同じような意味合いで使われていました。たとえば2008年にワタミ(ワタミフードサービス)の新入社員が自殺したのがニュースになりましたが、そのおかげかワタミ=ブラック企業のイメージも強かったですね。
・2008 年 6 月、神奈川県内の居酒屋チェーン「和民」で働いていたワタミ子会社「ワタミフードサービス」の女性社員=当時 26 歳=が、入社 2 カ月で自殺した。
ワタミ過労死事件と和解の社会的意義
・女性社員は、厨房でも刺身やサラダなど手の込んだ調理を担当。連日のように午後 3 時ごろから翌朝 3~5 時ごろまで働いていた。残業は最長で月 141 時間に。居酒屋の業務に加え、本社での研修参加やレポートの作成。休日には、半ば強制的にボランティア活動を強いられた。
・女性社員の両親が 2009 年に横須賀労基署に労災請求をしたが却下され、それを不服として両親が神奈川労働局に審査請求をして、2012 年 2 月、自殺は過労が原因として、女性社員の労災が認められた。
ブラック企業は最近出てきた、使われるようになったワードではなく、意外と歴史があるワードなんです。
なぜブラック企業で働き続けてしまうのか

ブラックバイトで『思考停止』が形成される
ブラックバイトが,ブラック企業の事前準備になっている。最初の仕事経験においてこのような不当な働き方をし,それが当然だと受け入れていれば,ブラック企業に入ってもおかしいとは思わない。
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
虐待やDVによる思考停止と同じでもある。ひどい目に遭い続けているから常態化してしまって,やられている側は,自分を被害者と認識できない。こういう思考停止構造にとって,理不尽な待遇を当然なこととして受け入れるということが,ブラックバイト時代に育まれている。
ブラックバイト、ブラック企業で恐ろしいのがそこに勤めている本人は自分の職場がブラック企業であるという認識は意外とありません。実は僕もそうでした。
たとえば塾講師をやっていたころは過労死ラインレベルの残業やそれだけでの残業をしても残業代が1円も出ないなど普通に考えれば違反なことでも、特に労働法に触れるような働き方をしているとは思っていませんでした。なんなら自分の働き方が普通であったり、単に自分の能力が低いからだと思ってました。
ブラックバイトで劣悪な労働環境に慣れてしまうと、就職してそこもブラック企業だったとしても特に悪いと思ったりそこから抜け出そうとも思わなくなることも多いので、
長時間労働で判断力を奪われていく
先述の思考停止状態と近いですが、特に長時間労働で疲弊している状態が続くと何も考えられなくなります。もちろんしんどい、つらいとは感じていますが、それ以上に考えること自体もしんどく感じてしまうので、劣悪な環境をどうにかしようという発想もわかなくなります。
ハラスメント構造で自己肯定感が削られる
長時間労働もそうですがハラスメントも厄介です。長時間労働は身体的な負担が大きいですが、ハラスメントは精神的な面で悪影響が出ることも多いです。たとえば上司からパワハラを受けていたとしても、被害者側が「自分がおかしいんじゃないか」「自分ができないんじゃないか」という認識を持ってしまうこともあります。
そうなると声を上げることもなくなりますし、ズルズルとブラック企業で働き続けることにもつながってしまいます。
権利を主張する“教育”が行われていない
今流行りのキャリア教育も場合によってはブラックバイト・ブラック企業で勤めることを誘発してしまう側面もあります。
最近は『ワークルール教育』という言葉も出てきており、まだマイナーではありますが学校において労働基準法など働く上でのルール「ワークルール」を教える取り組みも出てきています。僕も昨年茨城大学の労働法の授業で、学生に労働法や自分のブラック企業での経験を話しました。
そもそも学生にワークルールが浸透してない状況なので、ワークルールを教えること自体は意義があることと思いつつ、ただ教えるだけでは不十分とも感じています。
本当のワークルール教育は,実践的で,現場で役に立つ生きた知恵を授けるものだ。労働法の知識だけではなく,問題解決力を育むものでなければならない。状況を分析したり,交渉したりという力をどう育てていくのか。愚痴しか言えないところから,行動に移れるようになる。自虐的になった人がどうしたらもう一回行動的になれるのか,思考停止に陥っている人がどうやったら戦略的に考えられるようになるのか,そういう発想の転換を促すことがまず大事である。
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
もちろんワークルールの知識を教えるのは必須ですが、その上でたとえばブラック企業にいる中でどう行動どうすればいいか、どこに・誰に助けを求めればいいかなどより実践的な内容も必要だと考えられます。仮に自分の力だけでどうしようもなければ労働局、労働基準監督署、労働組合など外部の力を頼るのも良いでしょう。退職だけに重きを置くのであれば、退職代行もアリです。

ただし退職代行を使う場合は、弁護士や労働組合が運営する非弁行為のリスクがないところにしましょう。
また、従来のキャリア教育は「辛くても忍耐を!」(辛さを乗り越えた先に良いことがある!)みたいな悪い意味で昔ながらの教え方をやっているところもあったり、教育現場がブラック企業のようなネガティブな話題をタブー視している側面もあり、結果問題が生じた時の立ち回り方などを知らずに社会に出てしまうことも多々あります。
労働市場の劣化と若者の貧困
特にブラックバイト(学生バイト)でひどい目に遭っていると、「なんでそんなひどいバイトを辞めないの?辞めればいいじゃない」みたいに言われることもあります。
たしかに辞めることで労働問題・ひどい目に遭うことは避けられますが、現在の学生は昔と比べると金銭的に余裕がないことが多いです。
なぜ学生がアルバイトを辞められないか
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
一番変わったのが仕送り額で,かつての12万円から 8 万円台(全国は 7 万円台)に下がったことである。かつての仕送り額の中心10万円以上は 3 割を切っており, 5 万から10万が38.8%, 5 万未満が23.8%, 0 が8.0%,それくらい学生の経済状況は悪化している。これは,親の年収,世帯所得が下がり,家計からの学生への給付が困難になっていることに原因がある。
昔の学生は仕送りだけでひとまず生活はできました。それでもアルバイトをする学生はいましたが、、生活のためというより遊ぶお金などプラスαのお金を稼ぐためでした。
一方で現在は仕送りの額が減っており昔みたいに仕送りだけで生活できる学生はほんの一部になっています。そのためいやでもアルバイトをしないと生活が成り立たないことが多いのです。そしてそのような学生にとっては、仮にバイト先がブラックだとしてもそこを辞めることは生活を考えると非常にハードルが高く感じられてしまいます。
もちろん僕もブラックな職場に勤めている人がいたら辞めるもしくは労働局など外部機関への働きかけを提案したいところですが、働いている本人からすると貴重な収入源を失うリスクがあるともとれるので実はかなり難しい問題だったりします。
ブラック企業から抜け出すためのアクション
自分の状況を「言語化」する
まずは自分がどういう状況に置かれているかを認識する必要があります。たとえば仕事において何が苦しいのか?
長時間労働やハラスメント、給与未払いなどが挙げられますね。
ただし自分一人で状況を完全に把握するのも意外と難しいです。可能であれば友人、労働組合、労働局や大学生であればキャリアセンターなど会社の外の人・機関を頼りましょう。
外部の人や機関に相談する
ブラックバイト、ブラック企業に巻き込まれた際、社内に窓口があればそこに相談することも可能です。ただし規模が小さい会社だとそもそも窓口がなかったり、仮に相談したとしてもあしらわれたり報復を受ける可能性もあります。また、たとえばハラスメントを受けた人が社内窓口に相談したら、実は窓口の担当者とハラスメントの加害者がグルだったという事例もあります。
そのため、社内も活用できればした方が良いですが、先述の言語化と同様に外部機関を活用することもオススメします。主なところでは労働基準監督署や労働局、労働組合(ユニオン)、弁護士などがあります。外部機関であれば社内と違って中立な立場で接してくれることが多いです。
転職活動を並行で進める
ブラック企業・ブラックバイトから抜け出すということはつまり「退職」を意味します。退職するということは給料もなくなるため劣悪な環境から抜け出せるメリットがある一方、収入が途絶えるという金銭的なリスクもあります。
そのため一番ベストな立ち回りはブラック企業を辞めてもすぐ次の職場に転職することです。ただ転職活動はそんなすぐに決まるものではありません。そのため可能であれば働いている段階で次の職場を探しておくのが良いです。少し負担はあるかもしれませんが職場で働きながら求人をリサーチして、休みの日などに面接を受けに行くなどして退職前の段階から転職活動を進めておきましょう。
自分を責めない
労働者から電話で,上司からパワハラを受けているという相談をうけた事例がある。
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
「他の人が同じことをしても何も言われないんだけれども,自分だけしつこく説教されたりとか,人格を否定されるようなことを言われることがある。それで自分がおかしいんじゃないか,自分ができないんじゃないかというように悩んでしまっていると。」
僕もそうでしたが特にハラスメントを受けると、自分を責めてしまうことも多いです。僕も勤めていた農業法人をクビになった際に「おまえは価値のない人間だ!」と社長に言われて、ショックは受けましたが当初はあくまで自分が悪いと思ってました。自分が仕事ができないから、覚えが悪いからだと。
ただ百歩譲って仕事、スキルの話はまだしも価値のない人間など人格的な部分の攻撃は許されるものではありません。
若いうちにブラック企業を避ける方法
根本的なことを言えばそもそもブラック企業に入らないようにすることが一番のブラック企業対策とも言えます。ただしブラック企業を避けるにはそれ相応の知識も必要です。一概に「○○だからブラック企業!」と断言するのは難しいですが以下のポイントをもとに会社を観察すると会社に対して違和感を持つこともあるかもしれません。
- インターン・バイトの選び方
- 面接での見抜きポイント
- 就活で注意すべきワード
- 内定後の“怪しいサイン”
- ブラック部活・従属的キャリア教育の影響も説明
個人的な経験則では「面接」は社員、特に上司にあたる人が担当することもあるため、入社後にどんな人と働くかのイメージもわきやすいです。
僕が実際に入社したブラック企業でも、上司や社長が面接官でしたが面接はゆとり世代をひとくくりに見下したり、終始高圧的な態度でそれがそのまま入社後の仕事にも現れ、僕も精神的に追いこまれました。
まとめ
ブラック企業を辞められないとしても悪いのはあくまで労働者ではなくブラック企業です。一方でブラック企業に限らず会社を辞めることは金銭面などの観点でリスクがあるのも確かです。
ただブラック企業に勤め続けることは長い目で見ればデメリット・リスクも大きく、思考停止状態になることでしんどいことにもしんどさを感じなくなり、貴重な若い時期を無駄にしたり、心や体をやられてしまうと後遺症が残ることもあります。
今は昔と比べて働き方が多様ですし、退職・転職も一般的になってきています。
『ヤバい』と感じた職場は早めに切り上げて、ちゃんとした職場で働きましょう。



