著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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今回の記事は僕が塾講師をやっていた頃の話です。
特別に何かひどいことが起きたわけではありません。いつも通りの仕事中、授業の合間のふとした瞬間に、気づいたら目から涙が出ていたのです。
「なんで泣いてるんだろう」
自分でも理由がわかりませんでした。悲しいわけでも、怒っているわけでもない。でも涙だけが勝手に出てくる。あのときの感覚は今でも覚えています。
当時の僕は月50〜80時間の残業をこなし、2日で30時間働いたこともあるような状態でした。残業代はゼロ、昇給もなし。「仕事が多いのが正義」という雰囲気のもとで、ひたすら消耗し続けていました。
仕事中に何でもないタイミングで涙が出る。
これは「気のせい」でも「メンタルが弱いだけ」でもありません。心と体が発している、深刻なSOSサインである可能性があります。

ブラック企業研究家
長池 涼太
ブラック企業において過労死寸前の長時間労働やパワハラを経験。その経験をもとに大学などでブラック企業の実態やブラック企業で壊されたキャリアの再生方法等を解説。
そもそも、なぜ仕事中に涙が出るのか
各メンタルクリニックのホームページを見ると多くのページで唐突に涙が出ることをうつ病の初期症状として取り上げています。
うつ病と聞くと、「ずっと落ち込んでいる」「何もできない」状態を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際のうつ病は初期段階では「微細な不調」や「涙もろさ」から始まることが多いです。
よくある初期症状の例
- 仕事中に涙が出てしまう(特に理由がない)
- 朝、起きるのがつらくなる
- 眠りが浅くなった/夜中に目が覚める
- ミスが増える/集中できない
- 好きだったことに興味が持てなくなる
- 無意識に「自分なんて…」という思考が増える
- 人と会うのが億劫になる
こうした症状は、「誰にでもあること」「ただの疲れ」と見過ごされがちですが、2週間以上続く場合は注意が必要です。
仕事中に涙が止まらない うつ病のサイン?🌸こころコラム あざみ野🌸 | RICメンタルクリニックあざみ野院 |横浜市青葉区あざみ野の心療内科・精神科
感情より先に体が限界を知らせる

うつ状態や極度の疲労・ストレス状態になると、脳の感情調節機能が正常に働かなくなります。泣きたいわけでもないのに涙が出るのは、自律神経の乱れや、脳のオーバーロードが引き起こすような状態です。
特徴的なのは、自分でも理由がわからないという点です。
「なんか悲しい」「腹が立った」という明確な感情ではなく、ただ涙だけが出てくる。この状態は、心身がかなり限界に近づいているサインと考えるべきです。
ブラック企業の長時間労働が引き起こすこと
過酷な労働環境では、じわじわと確実に心身が削られていきます。問題は、本人がなかなかそれに気づけないことです。
「まだ大丈夫」「みんなこんなものだろう」という自己暗示が働き、ダメージが積み重なっても感覚が麻痺していきます。そして、ある日突然、何でもないタイミングで涙が出る。これが「静かに進行していた消耗」が表面化した瞬間です。
「仕事中に涙が出る」がうつのサインである理由

うつ病の症状は、落ち込みや気力の低下だけではありません。涙もろくなる・理由なく涙が出るというのは、うつ病や適応障害の代表的な症状のひとつです。
特に以下のような状況が重なっている場合は要注意です。
①長時間労働・慢性的な睡眠不足が続いている
ILOと世界保健機関(WHO)がこの度まとめた研究論文によれば、長時間労働によって虚血性心疾患及び脳卒中で亡くなった人の数が2016年に74万5,000人(2000年比29%増)に達したことが判明しました。2000~16年の期間に長時間労働によって心臓病で死亡した人の数は42%、脳卒中によって死亡した人の数は19%増加したとみられます。
この二つの疾患による人命と健康の喪失を長時間労働と関連させて行った初の世界規模の分析からは、2016年の脳卒中を原因とする死亡者39万8,000人と心疾患を原因とする死亡者34万7,000人が週労働時間が55時間を上回っていたとみられます。週労働時間が55時間を超えると、35~40時間の場合と比べて、虚血性心疾患と脳卒中のリスクがどちらも高まることを示す十分な証拠が得られました。
長時間労働が心臓病と脳卒中による死亡者を増加させる可能性をILOとWHOが指摘 | International Labour Organization
WHO(世界保健機関)の研究では、長時間労働により心疾患や脳卒中で亡くなった人が70万人以上に達し、特に週55時間以上の労働は脳卒中虚血性心疾患のリスクを高めると結論付けています。
僕が塾講師だった頃も常に誰かしら体調を崩していました。長時間労働が常態化した職場では、それが「普通」になってしまうのが怖いところです。
②以前はしなかったミスが増えた
うつや過労の初期段階では、集中力や判断力が低下します。僕も入社3〜4年目、過労のピーク時には授業絡みはもちろん保護者への連絡ミスなど新人の頃にはなかったような初歩的なミスをするようになっていました。これも脳が限界に近づいているサインです。
③「疲れが取れない」感覚が慢性化している
休んでも回復しない、朝起きたときからすでにだるい。この感覚が続いているなら、単なる疲労ではなくメンタルの消耗が深刻な段階に入っている可能性があります。
④感情が平坦になってきた
泣けるうちはまだいい、という見方もあります。さらに状態が悪化すると、喜怒哀楽そのものが薄れ、何をしても無感動になる「感情の平坦化」が起きます。涙が出るのは、まだ体が訴えかけている段階です。だからこそ、この段階で動くことが重要です。
仕事中に涙が出たら、自分の状態を確認してほしいこと
仕事中に涙が出た経験があるなら、今の自分の状態を正直に確認してみてください。
睡眠の質はどうか
寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝起きても疲れが残っている。これらは心身の消耗が睡眠に影響している典型的なサインです。
食欲や体の調子はどうか
胃腸の不調、食欲の著しい増減、タバコやお酒の量が増えている。これらも体が発している警戒信号です。僕の場合は、塾の前職の建設会社にいた時にストレスで過敏性腸症候群・胃腸炎を発症していましたが、それが再発してしまいました。
仕事以外のことが楽しめているか
趣味や友人との連絡さえ億劫になっていたり、休日は何もできずただ横になっているだけ。そんな状態が続いていないでしょうか。
「辞めたい」ではなく「消えたい」と思うことはないか

僕が過労が一番のピークだった時は、帰りに車を運転してた時に対向車線を走っている大型トラックを見てこう思いました。

あぁ…あのトラックに正面衝突したら楽になるかな…。
ただ会社が辞めたい、疲れたどころではなく「消えたい」「死にたい」と思っていませんか?
もしこの段階まで来ているなら、今すぐ専門家への相談を最優先にしてください。
ブラック企業にいる人は自分の限界を特に見逃しやすい

ブラック企業の環境にいる人が特に危ないのは、「これが普通」という感覚がマヒしてしまうことです。
僕も塾講師時代、2日で30時間働いて体が動かなくなった翌日も、「何とか気合で」出勤しました。ゲッソリした様子を見て上司がびっくりしていましたが、自分ではそこまで自覚がなかった部分もあります。それほど、感覚がズレていたのです。
ブラック企業では「まだ大丈夫」という自己暗示と、「ここで辞めるわけにはいかない」という自己犠牲的な思考が重なり、本来はSOSを出すべき状態でも動けなくなります。
仕事中に涙が出たという事実は、その麻痺した感覚を貫いて体が発している信号です。「気のせい」にしてはいけません。
涙が出たときに、今すぐできること

まず記録をつける
「睡眠時間」「その日の気分」「気になった出来事」を短くでいいので書き残してみましょう。客観的な記録は、自分の状態を把握するためにも、後で医師に相談する際にも役立ちます。
僕自身も、ブラック企業にいた頃にブログで日記を書いていた時期がありました。社名などはぼかしながらも、出来事や気持ちを書くだけで少し心が落ち着いた記憶があります。
信頼できる誰かに話す

職場の人でなくていいです。家族でも、古い友人でも。「最近仕事でしんどくて」と一言話すだけでいい。助けを求めることが目的ではなく、「知っておいてもらう」だけでも意味があります。
孤立は回復を著しく困難にします。誰かに状況を知ってもらうことが、後の行動への第一歩になります。
僕の場合は、卒業も親交があった高校の先輩や恩師にブラック企業での現状を話したり相談したりしていました。先輩は転職経験があったのでその視点でのアドバイスをしてくれたり、恩師は高校の同窓会の後に1時間くらい時間を取ってもらいがっつり相談に乗ってもらいました。その中でジョブカフェを相談していただき、後日ジョブカフェに行ったら話がすんなり進んで転職活動の道筋が見えたのでそこでようやく会社を辞める決意ができました。

ジョブカフェは全都道府県に配置されています。
ちなみに誰に相談するかの選定は最低でも、会社とは無関係の方がオススメです。
医療機関を受診する
涙が出るという症状は、心療内科・精神科への受診をする立派な理由になります。むしろ、この段階で受診できるかどうかが、回復の早さを大きく左右します。
僕は近所のかかりつけの内科でしたが、仕事行く前にいつも通り問診して薬もらって終わりと思ったら別室に案内されて、2時間くらい点滴を打つことになりました。その上で体調が深刻な状態だったらしく「今日は出勤しないで休んだ方が良い!」とドクターストップがかかりました。このように自分の感覚より、状態は深刻なこともあります。
有給休暇・休職制度を調べる
年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされていますが、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、年次有給休暇の日数のうち年5日について、使用者が時季を指定して取得させることが必要です
「年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています 有給休暇」の付与日数は、法律で決まっています|厚生労働省
僕が会社員をやってた2011年~2016年は有給休暇に関するルールがあいまいで、有給がなかったり申請して拒否をされることもあったり、それに対する罰則も特にありませんでした。
ただ、現在の法律(2019年4月1日~)では年10日以上の有給が付与される労働者に対して、年5日は企業側が取得させることが義務付けられています。休むことは逃げではなく、権利です。まず有給日数を確認し、逃げ道を作ることが精神的な安定にもつながります。
困った時は外部機関へアクセス・相談
ブラック企業における悩みは一人で解決するのは困難です。
- 総合労働相談コーナー(各都道府県に複数配備)
- こころの健康相談統一ダイヤル
- ジョブカフェ(都道府県が主体的に設置する、若者の就職支援をワンストップで行う施設)
- 近所の精神科・心療内科などの医療機関(体調不良もあるなら内科も可)
また、涼しく生きるとしても無料でのメールマガジン・LINE公式アカウントを開設しています。キャリアに関する情報をお届けすることもありますが、(簡易的な)質問や相談も大歓迎です。お気軽にご登録ください。
まとめ:仕事中に涙が出たら、それは体からのSOS

仕事中に何でもないタイミングで涙が出る。この経験は、決して「弱さ」の表れではありません。
長時間労働やブラック企業の環境の中で、心身が蓄積してきたダメージが表面化した瞬間です。体は正直です。感覚がマヒしている間も、体だけはずっとSOSを出し続けています。
「まだ大丈夫」と思っているうちに手を打てるかどうかが、その後の回復を大きく左右します。涙が出たことに気づいた今が、動き出す一番早いタイミング。
涼しく生きるもそんなにあなたに寄り添います。



