著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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TikTok上で拡散された、グローバルパートナーズによるインターン生への厳しい叱責動画が、SNS上で炎上していました。
動画内では、
- 「いてもいなくても変わんない」
- 「普通にクビ」
- 「教育コストが無駄」
といった発言が語られていました。一見すると「営業成績が悪い部下への厳しい指導」にも見えます。
何がアウトで、どこが危険ラインだったのか?
ベンチャー企業の闇とそこから考える労働法の観点でのパワハラの線引きを解説・考察しました。

ブラック企業研究家
長池 涼太
職業紹介責任者の資格所持。大学でのブラック企業に関する授業登壇の実績あり。当メディア涼しく生きる運営。
ブラック企業において過労死寸前の長時間労働やパワハラを経験。その経験をもとに大学などでブラック企業の実態やブラック企業で壊されたキャリアの再生方法等を解説。
問題の核心は「成績」ではなく「態度」

成績が悪いことへの指導は必要
まず重要なのは、「営業成績が悪いこと自体」は、指導理由として成立する点。目標40万円に対して6万円という結果であれば、
- 原因分析
- 行動量の見直し
- 改善指導
を行うこと自体は、業務上正当です。そのため営業成績が悪いことに対して上司が何かしらのアクションを起こすこと自体は悪いことではありません。
しかし、今回の問題はそこではありません。
問題視されるのは「言い方」と「場」
厚生労働省のパワハラ指針では、以下が明確に示されています。
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること
職場におけるハラスメント関係指針
今回の動画では、
- 人格や存在意義の否定
- 解雇を安易にほのめかす発言
- 不特定多数に公開される形での叱責
が同時に起きています。これは「指導」ではなく、精神的な攻撃+見せしめと評価されるリスクが非常に高い態様です。
「いてもいなくても変わらない」は何が問題か
動画内で繰り返される「いてもいなくても変わんない」という表現。これは単なる比喩ではなく、法的にはかなり危険な言葉です。
- 労働者の存在意義を否定する
- 改善可能性を閉ざす
- 職場での居場所を奪う
こうした言動は、厚労省指針上の「精神的な攻撃」に該当する可能性が高いです。業務改善の指導であれば、本来問われるべきなのは
- 何が足りなかったのか
- 次にどうすればいいのか
であって、「存在を否定する必要性」は一切ありません。いわゆるコーチングや伴走みたいなスタンスが必要なのであって、つるし上げは必要ありません。
SNS公開という「アウトの可能性が高い要素」

今回、最も致命的だったのはここです。通常の業務指導は、
- 本人と
- 適切な場で
- 改善を目的に
行われるべきものです。それをTikTokという拡散前提、不特定多数の人が観る媒体で、他の社員などいろんな人が見ている場で行うことは、教育ではなく晒し上げと評価されやすい。労働法的には、
- 名誉毀損
- 就業環境を害する行為
に該当する可能性もあります。
「本人が感謝しているからOK」は通用しない|判断基準は「平均的な労働者」
ハラスメントにおける反論として以下があります。
「本人は感謝している」
「成長のためにあえて厳しくしている」
しかし、法律は主観では判断しません。
ハラスメントの判断ポイントに以下の点があります。
③「就業環境が害される」とは
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
ハラスメントの定義|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当です。
なお、言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得ます。
会社内の社風・文化で暴力・暴言が許されるとしても法律が許さないこともあります。SNSで「普通にクビ」「いなくても変わらない」と言われる状況を、多くの人は強い苦痛と恐怖を感じます。また、上下関係がある中での「同意」や「感謝」は、
- 心理的拘束
- 逆らえない空気
が存在するため、自由意思とは見なされにくいのが実務の実情です。
特に今回のようなベンチャー企業の場合、良くも悪くも体育会系の人が多いので、このような強めの言動も許されてしまう風潮もありますが、あくまで世間一般の感覚や法律の観点で言うと許されるとも言い切れません。
「教育コスト」「時間を奪う」という発想の危うさ
動画内では、
- 「俺らの教育コストは?」
- 「こいつらの時間奪わないでほしい」
といった発言も見られます。これは経営的な視点としては理解できる部分もありますが、対人コミュニケーションとしては極めて危険です。人を「コスト」「無駄」として語る文化は、
- ハラスメントの温床
- 使い捨て思考
- 若手の萎縮
を生みやすく、結果的に組織の生産性も下げます。
インターン・学生が学ぶべき教訓
この件は、企業批判で終わらせるだけではもったいないです。
- 「成長させるために厳しい」は免罪符ではない
- SNSでの公開指導は赤信号
- 精神論・恐怖管理型の教育は、ブラック化しやすい
もちろん上司が部下に対して注意・叱ることのすべてが悪とは限りません。
叱ることが必要なシチュエーションもありますが、それでも叱り方というのはあり、暴言を吐いたり、恐怖で支配するような接し方は許されないです。
ハラスメントによるダメージは時に年単位で引きづる
今回のインターン生つるし上げの件は、個人的にも気になりました。
というのも「人前でつるし上げられる」「指導というより人格否定の要素もある」という点は僕が昔農業法人に勤めていた時に社長にパワハラを受け、クビにされたときと状況がかなり似ていました。僕も動画のような形でほかの社員の前で社長に30分間人格否定をされた経験があったからです。
TikTok動画を観てても、当時を少し思い出して正直嫌な気分にもなりました。

農業法人で社長にパワハラを受けたエピソードの詳細はコチラ。
おわりに:これは他人事ではない
今回の件は、
- 「勢いのあるベンチャー」
- 「成長至上主義」
- 「若者向けインターン」
という文脈で、どこにでも起こり得る構造的問題です。
『厳しさ=指導力』『晒し=教育』という誤解がなくならない限り、同じ問題は繰り返されます。この事例を通じて、
- 企業側は「指導の線引き」を
- 学生側は「守られるべき基準」を
知ることが、再発防止につながります。
僕自身もパワハラを受けて潰された経験があります。だからこそパワハラの被害に遭う人は減ってほしいし、同時に企業側はハラスメントにならないような言動を心掛けてほしいと思います。
ハラスメントの被害に遭ったらどうすればいいのか?企業・上司はハラスメントを起こさないために何に気を付ければいいか?
涼しく生きるでは被害者目線で解説する講演等もやっています。


