著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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職場の同僚女性を「ちゃん付け」で呼んだことがハラスメントと認定され、22万円の賠償命令が出た。そんなニュースが報じられ「ちゃん付けで呼んだだけでハラスメント⁉」「一体どこまでが許されるのか?」という戸惑いの声を生んでいます。
では、職場での「ちゃん付け」は、もう全面的に禁止なのでしょうか?実は、この判決の内容を探ると、単なる「呼び方」以上の、もっと根深い問題が見えてきます。
この記事では、世間を騒がせたこの判決から私たちが学ぶべき教訓を解説します。ちゃん付けの良しあしだけではない職場のコミュニケーションと敬意の本質に迫ります。

ブラック企業研究家
長池 涼太
職業紹介責任者の資格所持。大学でのブラック企業に関する授業登壇の実績あり。当メディア涼しく生きる運営。
ブラック企業において過労死寸前の長時間労働やパワハラを経験。その経験をもとに大学などでブラック企業の恐ろしさやブラック企業を避けるための立ち回りなどを講演等で解説。
「ちゃん付け」が引き起こした労働問題とセクハラ認定の背景
職場での「〇〇ちゃん」呼びはセクハラ―。運送会社に勤めていた40代女性が年上の元同僚の男性からセクハラを受けたとして賠償を求めた訴訟で、東京地裁が今年10月に出した判決が波紋を呼んでいる。一見信じ難いと思う判断が出るまでにどんなやりとりがあったのか。ちゃん付け呼びを「なれなれしい」と感じていた原告の女性に対し、「特別な意味は無い」と釈明する男性。法廷での尋問や訴訟資料からは、職場での小さな違和感が、やがて取り返しのつかない深い溝となっていく経過が明らかになった。
職場で「〇〇ちゃん」をセクハラ認定、実はちゃんと根拠があった 親しみ込めても「不快感」、厳しすぎると感じた人は要注意 | NEWSjp
運送会社(別の記事では佐川急便と社名が出てました)におけるセクハラで、同僚男性から40代女性に対する「ちゃん付け」を筆頭にした日ごろからの言動により女性はうつ病、退職に追い込まれしまいました。
なおセクハラについては厚生労働省は以下のように定義しています。
職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」(※1)において行われる、「労働者」(※2)の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。
2 職場におけるセクシュアルハラスメントとは|外国人労働者向けハラスメント対策ページ (日本語)|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-
記事内では実際にあった加害者の言動として以下を挙げています。
- 「それ胸元がはだけて下着が見えてしまうよ」
- 「格闘技をやってるって聞いたけど、体形良いよね」
セクハラに当たるポイントとして「性的な言動」が挙がりますが、それに抵触する可能性が高いと考えられます。
各種メディアも報じており、記事タイトルの「○○ちゃん呼びはセクハラ」といった文言が特に目を引きます。もちろん裁判においてもちゃん呼びに関する批判もありましたが、実は今回セクハラに認定されたのはそれだけが理由ではありませんでした。
セクハラの真実:「ちゃん付け」以外の複合的な言動

まず理解すべき最も重要な点は、裁判所が「ちゃん付け」という行為単独でハラスメントと判断したわけではない、ということです。判決は、一連の言動が「許容される限度を超えた」と指摘しました。男性の行為は「ちゃん付け」以外にも複数あり、それらが組み合わさってハラスメントと認定されたのです。
具体的には、以下のような行為が問題視されました。
- 住所を聞いたうえで女性の自宅に「感謝」の電報を送りつける
- 「今のかわいい」といった容姿に関する発言
- 「体形良いよね」といった身体的な特徴への言及
- 「癒やして」といった業務に関係のない要求
つまり、「ちゃん付け」は、これらのプロフェッショナルな境界線を踏み越える一連の行為の「象徴」として機能していたのです。単独の問題ではなく、関係性の歪みを表すサインでした。
そのため、仮にちゃん付けの件がなかったとしても今回はセクハラと認定された可能性もあります。
セクハラ・ハラスメントで「悪気はなかった」が通用しない理由
「親しみを込めて呼んでいただけなのに」「冗談のつもりだった」といった反応は、ハラスメント問題でよく聞かれる弁明です。ハラスメントの加害者ではよくある悪気はなかったという言い分ですが、今回の判決はその考え方が通用しないことを明確に示しました。
弁護士法人直法律事務所のYouTubeにおける解説によれば、セクハラの判断において、加害者の「意図」は最も重要な要素ではありません。重視されるのは、「受け手がどう感じたか」、その言動が「社会通念上、業務上必要と言えるか」という点です。
この点を、東京地裁の裁判官は判決で次のように断じています。「親しみを込めていたとしても不快感や羞恥心を与える不適切な行為だった」
この言葉が示すのは、責任の所在の転換です。「過剰に反応する方が悪い」のではなく、「相手がどう受け取るかを想像できなかった」側に配慮が求められるということです。これは法的な責任論だけでなく、心理的安全性が確保された職場を築くための基本原則です。従業員が「気にしすぎだ」と自己を責めることなく、不快感を表明できる環境こそが、健全な職場の土台となります。
「くん付け」や「あだ名」も危険?職場のハラスメントリスク
この問題を「年上男性から年下女性へ」という典型的な構図だけで捉えてしまうと、本質を見誤ります。
私も、何の考えもなしに、自分よりも年下の男性を「くん」付けで呼んでしまっているけれど、これも、よく考えなければいけないことなんだろうな。
自分としては、なんとなく、これまでの自分の生きてきた世界の常識で、自分より年下の男性に対しては「くん」で呼び、年上の男性に対しては「さん」で呼ぶのが当たり前になっていたけれど、もしかしたら、それが、相手にとっては、共に働く仲間として尊重が欠けるものだったかもしれない。
「いやだな」と感じる人がいるかもしれない。あだ名などもそう。
「ちゃん」付けはハラスメント? |Authense法律事務所
私自身は、なんだか恥ずかしくて、人をあだ名で呼ぶことができないのだけど、あだ名というのも、使われ方によっては、または、そのあだ名を呼ばれる側がどう受け止めるかによっては、やはりとても不快なものになり得るのかもしれない。
男女や年齢差などによって例えば女性上司と男性部下など様々なパターンがあります。今回の件に言及していたAuthense法律事務所の高橋麻理弁護士は、自分では当たり前だと思っていたその呼び方が、相手にとっては「対等な仕事仲間として尊重されていない」と感じさせていたかもしれない、と気づいたのです。
ちゃん付け以外にも「くん付け」や「あだ名」なども使い方によっては今回と同じく裁判沙汰になった可能性もあります。
ちなみに僕も会社員時代に女性の上司もいてそのときは「長池くん」と呼ばれることもありました。僕はその上司と特に関係をこじらせたとかなかったので、君付けに対して違和感や不快感はなかったです。ただ、これが関係性によっては不快感など抱く可能性もあったかもしれません。
とはいえ、問題の核心は、「ちゃん」や「くん」といった特定の言葉そのものではありません。その背景にある、年齢、経験、性別などに基づいた無意識の上下関係や、相手への敬意の欠如です。互いの間にパートナーとしての信頼関係があり、その呼び方を心地よいものとして双方が認識していれば問題にはなりにくいでしょう。しかし、それは一方的な思い込みであるケースが少なくありません。
高橋弁護士が指摘するように、私たちはこの想像力を持つ必要があります。だから、「もしかしたら、相手は自分と全く違った考え方、受け止め方をしているのかもしれない」という想像力が必要なのだと思います。
職場における呼び方の適切な判断基準
僕自身も会社員をやっていた時に女性の後輩の社員もいました。その人に対して今回の件のように「○○ちゃん」みたいに呼べるかというと僕は呼べないですし、少なくとも仕事・会社関係の人にそのように呼ぶのは失礼というか違和感を感じました。
今は会社ではないですが、NPO法人など様々な組織・コミュニティにかかわりその中でいろんな人と接点があります。当然その中にも今回の会社のように年下の女性もいますが、ちゃん付けで呼ぶことはありません。それはちゃん付けがセクハラなどに該当する可能性が高いのもそうですが、そこまで親しくないしかも異性にちゃん付けで呼ばれるのは女性からすれば嫌悪感を抱かれるであろうことは、相手のことをある程度想像すればわかるはずです。
職場のハラスメント対策:敬意と想像力で健全な職場を築く
今回の「ちゃん付け」訴訟は、職場での禁止用語リストを作ることが目的ではありません。これは、私たち一人ひとりが、職場の人間関係の土台を見直すための警鐘です。
目指すべきは「親しみ」だけでつながる職場ではなく、「敬意」でつながる職場です。フレンドリーな雰囲気はもちろん大切ですが、それが相手の尊厳を軽んじることの言い訳になってはなりません。
この判決が本当に私たちに問いかけているのは、単なる「ちゃん付け」の是非や言葉選びのルールではありません。それは、私たちの心の中に潜む無意識の序列意識そのものです。「私たちは年齢や経験で相手に優劣の目を向けていないだろうか? そして、相手への敬意は、本当に『伝わる形』で示せているだろうか?」
今回のちゃん付けの件も、もしかしたら女性社員に対する敬意などがあれば、起こらなかった事案ではないでしょうか?




